« はじめての比叡山 延暦寺 | to Top | 京の小路を歩く 夜の嵐山 »
2009年09月07日
はじめての錦市場
月曜10時の錦市場は開店の準備を進めている店が多く、行き交う人もまばらだった。ここは早朝からテンションの高まる市場ではないらしい。大勢の客に紛れて、のんびり品物を物色することができるだろうと思っていたのだが、大誤算。これは、緊張が連続する買い物になりそう。それでも、予備知識のない状態で知らない場所へ一歩足を踏み入れることは、一生に一度限りの楽しみ。頼りになるのは、自分自身の直感だけ。さぁ、頑張ってみよう。
烏丸通りから京都大丸の裏口に入っていくと、すぐに錦市場のアーケードを見つけた。実は、昨夜遅くにこの市場を歩いて、宿へ帰っていたのだ。市場といっても大型車が通れる幅はなく、昔ながらの商店街が軒を連ねている感じた。通りの床は見事なまでに磨かれ、よくある魚臭さは感じられない。また、ダンボールなどを軒先に出したままにしている店もない。間口を狭くすることで税金を安くしたという、京の町屋づくりの影響がこんなところにも見られるのだろうか。いったい、この細々とした間隔でいったい何店舗の店や物がひしめきあっているのだろうか。頭上に整然と並んだ蛍光灯入りの店看板、その青白い光が途切れるたことで市場の端から端まで歩いてしまったことに気づき、明日はどれほどの人で賑わうのだろう?とワクワクしながら眠りについたのだった。
実際に市場を歩きはじめて、まず目に止まったのは魚屋さんだった。新鮮な水揚げされたばかりの蛸が台の上に無造作に置かれていて、一夜干しやみりん干しも多く見られた。八百屋さんには珍しい京野菜がズラリと並ぶ。見たことも、聞いたこともない野菜もある感じだ。とりあえず、はじめは端から端まで歩くだけ歩いてみよう。突き当りは錦天満宮、お参りをしてここで引き返そう。コンコンと流れ出る清めの水は甘みがあって、とても美味しい。

同じようなラインナップの店も多いが、店の醸す空気は微妙に異なっている。「ここは、良いかもしれない」そんな風に感じて、初めての錦市場で店主に声をかけたのが、乾物屋だった。そこにある干物があまりに美しかったからだ。ささがれいに、あみ、ホタテ、日本海で水揚げされたそれらを、丁寧に天日干ししているのだという。京料理の要 極上の出汁をとるために作ったという出汁パックを味見させてもらうと、ほんのりと椎茸の香り。これはよさそう!「一番は料理に、二番は味噌汁に。最後は細かく刻んで佃煮やふりかけに。うちは出来る限りいいものをつこうてるから、捨てるものは何もないんよ。」主の自信に満ちた声に、魅惑的な乾物と出汁パックを買う。「初めて市場に来たのだけれど、こんなにいいものに出合えて嬉しいです。」と私。これが、錦市場で最初の買い物となった。
次に気になったのは、八百屋だった。まず私が興味を持ったのは、ルバーブに似た”ずいき”という京野菜。まず、関東には出回らない野菜だ。
「これ、買ってみたいと思うんですけど、どうやって食べたらいいですか?」と声をかけた。すると、「まず皮を剥いて湯がいてな。出汁で煮たら、うまい。面倒なんや、手間がかかるし、爪も真っ黒になるしな。そんでも、美味しい。こうてみる?」私は「うん、うん」と頷く。そして、とうがらしやシシトウの類の多さに驚いた。「満願寺とうがらしに、○○とうがらし、○○ししとう、鷹峰とうがらし...いろいろ、あるんですね~。これとこれは、どんな味?」「そやね、賀茂ナスと水ナスの違いがようわかるか?」「そう言われると...」「そやろ、京野菜の味は説明が難しいねん。両方食べてみて初めて違いがわかる、そういうもんや。」”鷹峰(たかがみね)”という地名の響きに、私はなぜか惹かれた。「これ、買ってみようかな。」「鷹峰産や、ずっと北のほう。まだら模様のうまい豆は知ってるやろ?あそこや。満願寺とうがらしは一年中あるけどな、鷹峰は今だけや。ここ2週間!」「味覚の秋やいうけどな、京都では、ほんまは野菜がない時期。根菜が出るのはずっと先やしな。だから、今が一番ええ時かもしれん。京の野菜はなんといっても甘いし、うまいな。寒いのがええねん。」京都弁と関東言葉で、このようなやりとりをしたと思う。私は、赤いずいきと鷹峰とうがらしを買った。謙虚な気持ちでいれば、観光客だって相手にしてもらえるようだ。あぁ、よかったー!と胸をなで下ろす。そうだ、ここは外国ではない。同じ日本、日本人同士なのだから...。なのに、どうしてこんなに緊張してしまうのだろう。TAXIやバスを足にしてお寺まわりばかりをしていたら、永遠に知らなかった京の日常に、今まさに触れている。なんだか楽しくなってきた。
魚屋で目にした、サバのぬか漬け”へしこ”も気にかかっていた。私は、未だにへしこという珍味を食べたことがない。隣にはイワシを漬けたへしこも!イワシのへしこには”最高級”という赤いコピーまで書いてある。そうか、これこそ庶民の食べ物かもしれない。店の人に「イワシの、ですかー?」と話しかけると、「塩辛いけど、お茶漬けに合う。常温で3ヶ月は楽にもつよ。」と言われた。きっと、いや絶対にこれは庶民的な味をしているのだ。迷わず3尾買う。イワシのへしこは、福井の方の保存食のようだ。
次に、デパ地下探検にくりだすことにした。手には新聞紙にくるまれた赤いズイキを持ったままだ。お目当ては、なかなか東京に出回らない調味料。薄口しょうゆや、くずきり、蜜、山椒のきいた七味などを買う。このまま買い物を続けるのは困難な重さになってきたので、ひとまず宿に戻って荷物を置こう。市場はお昼が近づいても準備中の店があった。もしかすると、夕食前は、また発見があるのかもしれない。
再び市場のアーケードを訪れたのは17:00、午前中とは全く違う賑わいを見せていたから驚いた。二軒の蒲鉾屋が、揚げたてホヤホヤのねりものを店先に並べはじめていた所で、”冷やし あんぺい”という、見るからに美味しそうな夏だけの生蒲鉾と湯葉天を衝動買い。続いて湯葉の店に行くと、ここにも出来たての生湯葉が並んでいたから...。出汁巻き卵に、焚きたてのかやくご飯...いやはや困った。この市場は夕方こそ魅力的だったのだ!あぁ、来て良かった。少しづつだが買い物にも慣れてきて、金物の店 有次では店の方と話をしながら、じっくりを鋼の道具を手に取ることができた。
自宅に戻って、今回のお土産を並べてみると...珍しいことにお菓子はなく、料理のための材料ばかり。夏は、生ものは、その場で最も美味い状態で食べて帰るに限ると思えた、今回の旅。いつの日にか、八百屋さんが話していた冬の京野菜をお土産に。

posted:2009年09月07日 17:23



